「あ、いや、お会い出来ていないものですから」

「そうですか。最初に聞いておくべきでした。親とはいえ、娘のプライバシーに関することをこれ以上勝手にしゃべるわけにはいきません。娘には疑いがかかっていないなどという口車にうまく乗ったようですな」

「いやいや、そんなつもりでは。もうこれで終わりに致しますので、病院名だけでも思い出していただければ」

「本当に訊きたかったことはそのことだったんですね。それは、本人に訊かれたらどうですか? 少なくとも、本人の許可を取ってきてもらわないと。今日のことも含めてですが、これ以上質問があれば、会社の顧問弁護士に相談した上で対処します」

最後は気色ばんだ飯島社長に追い出されるようにして、田所は飯島工務店本社ビルを後にした。

15 

事件当日に国枝和子のマンションの防犯カメラに映っていた第三の人物の捜査が大詰めを迎えていた。目下のところ、この第三の人物が国枝和子と同じ階に住む中米の大使館員、ジョセフ・ロペスの知り合いかどうかが焦点になっていた。

もし、この男がジョセフの関係者であると証明されれば、第三の人物は国枝和子と直接の関わりはなく、犯人である可能性が極めて低くなる。

秋月班は、ジョセフが大使館以外で出入りする唯一と言っていい場所が、新宿二丁目のバー、グラディエーターであることを突き止め、木村刑事と原刑事が聞き込みをかけた。

店のママは、写真の人物は知らないととぼけた様子で答えたが、木村は、従業員を急襲してはっきり事実を確認しようと、店を出るとそのまま店の脇で原と張り込みを続けた。

その作戦が功を奏した。最初に連れ立って出勤して来たヨシオとカズキと名乗る二人が、写真の人物をあっさりと特定してくれた。

上野御徒町にあるゲイバー「サザン」に勤める通称ケンジという同業者であることを教えてくれた。その道では多少名の知れた人物で、以前は時々店に来てジョセフという外国人と親しくしていたが、最近は見かけないということであった。

これで、第三の人物はジョセフの知り合いであることが分かり、国枝殺害犯の可能性がほぼ消えたため、木村と原の意気はおおいに下がった。

しかし、最後の詰めをする必要があった。

次回更新は6月2日(月)、22時の予定です。

 

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