第一章 神社にて

朝の静かな神宮の森、其れが歩く参道の左右に接してきている。其の森は緑が豊かで鬱蒼とした感じだ。今は朝で静かな場所だが、日曜日なのか人の数が多い。それでも、静かさは変わらない。

此の参道を拝殿の有る方へと向かって、七十五才の祖父と二十才の孫が仲良さそうに歩いている。二人は神宮に参拝に来たのではない。

七十五才の祖父はフリーランスのプロカメラマンで高井義継、孫は大学生で高井征一。義継はフリーランスだから、土、日に仕事をしたり平日を休日にして休んだり出来る。

大事なのは、依頼者から頼まれた仕事をやり切ることだ。義継は出版社からの依頼で雑誌に載せる風景や建物の写真、其れと料理の写真を撮ってきた。雑誌には旅行専門雑誌もあれば一般雑誌もある。

目立たないが、人々に旅行の憧れと楽しみを与える縁の下の力持ち的な存在である。フリーランスのプロカメラマンになる前、義継は出版社に所属するカメラマンであった。

そうした中で、カメラマンとしての技術を向上させ業界での人脈を作り上げていった。そして、フリーランスのプロカメラマンとして独立し今に至る。

二人はもう可なり奥に進んだのか、後ろの入り口の第一鳥居は遠ざかり、前の方の第二鳥居が近づいてくる。

其の鳥居を潜(くぐ)れば、拝殿のある敷地に入る。進むにつれ、第二鳥居が少し大きく見えてきた。征一は共に歩いている隣の祖父・義継に前々からどうしても尋ねたいと思っていた事があった。