また、リーゼントで黒いスーツの男性社員が店内をうろうろしていた。この会社は反社会的な資質ではないのか。仕事はほしいが、合格してもここで働けるだろうか。あれこれ考えをめぐらしていたが、とりあえずは合格を目指してみようとだけ決めて、試験に向かった。
英語の筆記試験はハワイの現地企業との挙式に関する業務契約書の日本語訳が問題だった。幸か不幸か、十名の一次試験合格者の中に残った。
数日後の二次の面接は、これも驚いたが、髪を紫色に染めた濃いお化粧の、派手なセーターと黒のスパッツ姿の女性役員という人が対応した。姿を見ただけで、かしこまる気は失せてしまった。映画で見たやくざの姉御のようで、もうこの会社に合格できなくてもいいという開き直った気分だったかもしれない。聞かれたことに躊躇いも物怖じもなく、率直に応じた。
何がこの結果に結びついたのかわからないが、間もなく採用の通知が届いた。嬉しいはずの連絡だったが、こんな会社に行きたくないという気持ちが半分だった。
どうしようかと考えてみたが、他に代わりがあるわけではないので、怖いもの見たさで入社してみることに決めた。
『思い違いかもしれないし……』
などと、自分を騙しだまし、初出社の日を迎えた。早めに家を出て、電車を乗り継ぎ、会社に着いた。狭い敷地の上に建てられた六階建ての鉛筆のような細長いビルを見上げて、ため息が出た。
指示された通り、四階の部屋に上がって、その場にいた女性社員に入社の挨拶をした。四階は女性ばかりの職場で、衣装貸出の準備をする部屋だった。全社員が集まって朝礼があるということで、他の人たちと一緒に六階へ上がった。
部屋に入ってぎょっとした。数十名の社員が半円状にずらりと並んで立っていたのだ。経営者らしいスポーツ刈りでサングラスをかけた人相の悪い六十歳くらいの男性を中心に、紫色のヘアの女性や、リーゼントのお兄さんたちが厳しい顔をして立っていたのだ。
衣装担当の女性たちは、おそらくお店で一番の働き手達なのだろうが、一般人という雰囲気で小さくなって固まっていた。
今回同時に採用になった女性五人が皆に紹介された後、営業報告が始まった。成績の悪い営業社員が大勢の前で、大声で糾弾され、罵倒され、涙を流していた。
三日続けて出社してみてわかったことは、この建物は一階から三階までが貸衣装の展示と試着、接客の営業スペースで、四階が衣装の貸出準備の作業スペース。そこは接客、試着、直し作業を全てする女性たちの仕事場だ。五階、六階は重役とリーゼントの営業スタッフの居場所で、顧客と女子社員の動きを監視するため、各フロアを映すモニターが五階の壁一面に設置されていた。