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中米小国の大使館員、ジョセフ・ロペスの身辺捜査が密かに続けられていた。

このジョセフと第三の人物との間に関係があるかないかを確かめるという漠然とした捜査のため、第三の人物を追う秋月率いる捜査班の意気は今ひとつ上がらなかった。

しかも、外交官相手であり、気付かれてねじ込まれることがないよう気を使う捜査でもあった。

こうした厄介な捜査状況の中で、ようやく一つの有力な情報がもたらされた。参事官ともなると送迎車での通勤であるため、平日、ジョセフは港区にある大使館と西城公園のマンションを往復する単調な生活を送っていた。

しかし、週末のプライベートな時間になると、単身のジョセフは東神電鉄を利用して新宿方面に出かけることが多かった。

その週末のジョセフの尾行を続けた警視庁刑事の木村洋平と西城警察署刑事の原よしみ二人から、ジョセフが新宿二丁目に出入りしているとの報告が上がったのだ。

「新宿二丁目と言えば、その筋の街だろう」

報告を受けた秋月は、意外な表情を浮かべて原を見た。

「はい。LGBTタウンで、セクシャル・マイノリティー向けのバーやショウパブが500軒はあると言われてます」

この特別捜査本部では数少ない女性刑事の一人、原よしみは、二年の交番勤務、さらに一年のパトカー乗務の後、優秀な成績と熱心な仕事ぶりが評価され、昨年四月に任用されたばかりの新米刑事だ。

フットワークの良さとさばさばした飾らない性格が持ち味で、配属先の西城警察署から特別捜査本部要員に招集され、いきなり現場に投入されていた。

「LGBT、セクシャル・マイノリティー? おお、なかなか難しい言葉を使うな」

秋月は、わざとらしく顔をしかめ、原に向かって冗談めかして言った。

「同性愛ですよ」

原の相方である木村が、秋月の皮肉をはぐらかすようにあっさり言うと、さらに付け加えた。

次回更新は5月26日(月)、22時の予定です。

 

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