知っている声の場合もあるし、全く知らない初めての声のときもある。
そのときは、結迦がこれまでに聞いたことのない声だった。「ゆ、い、かー……。ずっと、ず っと……」
とても苦しそうで、呻き声のような、やっと絞り出すようなかすれた声。そんなふうに聞こえたのだった。
「どなたですか?」
結迦がそう尋ねても、なんの返答ももらえなかった。だが結迦は咄嗟に、もしかしたら信長さまかもしれないと思った。
「ずっと、ずーっと」
と言った信長公のその先を、結迦はひとりで考えていた。なにを言いたかったのだろう。あれこれ考え、想像してみる結迦だったが、そのうちに眠ってしまったようである。
朝になり目が覚めると、「もしかして、私……信長さま、連れて来ちゃった? いやいや、信長さまが勝手に、ついて来ちゃったんだよね。私、一緒に帰りませんか? とか、なにも言っていないし。
きっと信長さまは神出鬼没のはずだと思うから、移動の距離とかも関係ないんだよね。それにしてもいったい、なにが起こって、どうなっちゃうんだろう」結迦の思考は、フル回転となっていた。
「信長さまだと思ってお話ししますね。私は信長さまを独占したいとか、そういう気持ちは全くありません。せっかくこの時代にいらっしゃったのでしたら、世界中を見てまわって、楽しんでください。
信長さまが生きていた時代とこの時代の、諸外国の変化をぜひ、その目で確かめてみてください。呼んだら、きっとまた来てくださいますよね。どうか、自由にお過ごしくださって大丈夫ですよ。信長さまのしたいように、なさってくださいませ」
こんな話、誰か信じてくれるのだろうか。体験しているのは、結迦である。生活が激変するとか、困るとかではない。病的というわけでもないだろう。結迦にとっての現象なだけだ。
それは「信長さまを連れて来ちゃった!」と思うしかないという笑い話。別名、第六天魔王とも呼ばれていたお方を、深い眠りからどうやら、この世へと復活させてしまったらしい?
「その朝の寝息ってさあ、それって、夜這いじゃないの?」とその後、知人に言われた結迦。
「はい、その可能性は高いかもですね」
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