「随苑飯店を出られた時間、分かりますか?」

「えーと、八時四十五分、五十分頃でしょうか。そろそろ帰ろうかと思って時計を見た時が八時半過ぎでしたから」

宇佐見は、地図を思い浮かべて素早く思いを巡らした。横浜中華街から世田谷の西城公園まで車で飛ばせば、一時間足らずで到達可能ではないかと。

「分かりました。そうすると、田代さんは、六日は六時前から八時四十五分頃まで随苑飯店にいて、その後一人で蒲田の自宅に帰って休まれたということですね。随苑飯店を出た後は誰かに会われました?」

田代に似た人物を遅い時間に見たという目撃者の言った遅い時間とは、この九時頃のことだったのだ。

「いや、特に。でも、その後は、どこにも行ってませんよ」

「いやいや、分かってます。念のためです。ところで、田代さんは世田谷の西城公園に行かれたことはありますか?」

宇佐見は直球を投げた。

「いや、ありません。それって、事件のあったところですよね。そんな……」

「いやいや、これも念のためなんです。その日、西城公園の方で田代さんに似た人を見たという話があるものですから」

「そんな馬鹿な」

「いやいや、申し訳ありません。随苑飯店の方に確認はさせてもらいますが、田代さんは間違いなくその日は横浜にいらっしゃったようですので、人違いだと思います。ただ、これも確認のためなんで」

「似た人物を見た人がいる、そういうことですか。警察はそんな曖昧なことで私を犯人扱いにするんですか」

「犯人扱いにしているわけではないんですが、可能性は全てつぶさないといけませんので」

「可能性っていったいなんなんですか?」

「横浜中華街から西城公園まで車でどれくらいかかりますかね」

宇佐見は、横浜にいたという田代のアリバイを認めながらも、なお田代を煽るように言った。