夏生は「そうでもないさ」と応えようとしたが、かわりにサオリに聞こえないように長い息を吐いた。握ったサオリの指は冷たいのに、夏生は体中がカーッと熱くなった。女性に「魅かれる」と生まれて初めて言われたことが嬉しかった。でもその気持ちをサオリのようにさらりと表せず、形にならない言葉を胸に溜めた。

自分の掌が汗をかいている。夏生は頬を染める思いで指から力を抜いた。

「いいじゃん。このままで」

サオリは指に少し力を入れてきた。

「今日会ったばかりなのに、手をつないでくる女なの。私って」

サオリは、クククッと笑う。いや、俺は先週から知っているさと夏生は思う。

烏丸通りから千本通りまでの間、サオリは夏生の手を離さなかった。鼻が痒いとつないだままの手を鼻の前に運び、夏生の指で鼻の頭をこすった。時々、手をつないだまま腕を前後に大きく振った。その度に腕の力を抜いて振られるままにしている夏生に体当たりをしたりした。

その道すがらサオリの話は雀荘通いのことに移った。

「私ね、麻雀の残酷なところが好きなの。分かる?」麻雀の経験がない夏生は首を横に振る。

「当然、トップをとりたいのよ。誰だってラスを引くことは避けたいわ」

 

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