それは、まるで蛍の光のようにポッと灯ってフッと消えていく。男性が話し始めると何故か無彩色の光が灯り、女性が手を上げると暖かい暖色系の光がポッと灯る。人が変わるたびに光の色もめまぐるしく変わる。
長く単調なチャンティングのせいか、それとも、会場内の人熱(いき)れによるものか、そのときのボクはゾーンに入っていた。ここで言うゾーンというのは曰く言いがたい感覚で、何とも説明しにくい。強いて言うなら、それはランニングハイやスイミングハイの状態に似ている。
ランニングハイやスイミングハイは肉体の限界を超えて走り続けたり泳ぎ続けられる感覚だが、ゾーンは心の限界を超えた状態とでも言ったらいいのだろうか、内側と外側の境がなくなる感覚とでも言ったらいいのか、そして、時間の感覚がなくなる。
それなりに訓練を受けた人や修行をしている人ならばゾーンに入る入らないは自分の意思で制御出来るのだろうが、そうした素養もなく、それなりの修行もしていないボクにはそれは予期せぬときに突然やってくる。だから、身構える暇がない。
身構えていないから、それはごく日常の営みの中でふっとやってくる。ごく普通の出来事として起きるからボク自身はゾーンに入っていることに気づかない。そこでは日常と非日常の区別がないから、何か特別なことが起きていることにも気づかない。
やがて、その日のサットサンガ、自由討論も終わりに近づいた。前列の右端に座る女性が手を上げる。後ろから見てもかなりの年配であることがわかる。
女性が何か言う。と、その辺りに鮮やかなオレンジ色の灯がポッと灯った。
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