多様な社会的背景を持つ障碍者の人生物語をありのままキャッチし、共感を携えた君の臨床は障碍者に慕われ、君が担当した障碍者の発起による[まさか会]と銘打った親睦会は、十数年に亘り活動を続けた。

『お前様よ! それもこれも、十三年間の他業種修業が役にたってるんだよ』

【二人の佛】に言われるまでもなく、君は、眼前に提示されるあらゆる経験は、回避するなどとはあまりにももったいない、すべて人生の糧になるものとつくづく思った。

君が脳卒中後遺症のリハビリテーション医療に、我が国の伝統医療である鍼灸医療を初めて導入した経緯や、それが契機となって、その分野で一定の役を担い、応分の責を果たした経緯などの追想は、君が書こうとしている自分史の筆にゆだねることして、N病院の名前が出てきたところでひとまずこの追想は打ち切ろう。

ともあれ、N病院と聞いただけで、人生の大きな節目となった追憶が、一瞬のうちに君の頭を駆け抜けていった。

一方、横田氏にとっても、わずか六か月という短い実習期間であったとしても、修学の最終学年にあって、実地に患者さんに接した臨床家としての感触や、多分、指導教官から何かしらのお小言をもらったであろう忘れ難い思い出があるはず。

追憶の質は違っても[N病院時代]は、共通した目次としてお互いの自分史の中にあった。昇降訓練が終わったあと、「心拍数は110、アンダーソン・土肥の基準(心拍数120を超えたら訓練を休む)は満たしています。立派です」

横田氏の言い様に、予定通り手術を終え、来月二日には退院できる身体状況を保証された感じをそのままに、礼を述べ、君はリハビリテーション室を後にした。

午後二時過ぎ心カテ検査に呼ばれる。検査室は手術場の一隅にあった。例によって氏名・生年月日を言わされ、手術台に寝かされると、手早く心電図の電極と指尖にパルスオキシメーターが装着される。

手術台の上には小型のX線照射管が君を見下ろしていた。この景色の中で、これから行われる心カテ検査のすべては君にとって初めての体験である。不安よりは興味が優先した。

 

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