気持ちを落ち着かせ、周辺の砂浜を眺めやると、そこには五つの板が見えた。立ち上がり、ひとつひとつを拾い集めると、すべての板には鮮やかな竜の彫りがあった。

六枚の板を脇に抱えた中御門創一は妻の志保が待つ小さな家に戻った。居間のコーナーに大きな存在感で佇むブラウン管のテレビには、1970年大阪で開催された万国博覧会のアメリカ館に陳列されている『月の石』を見る人たちの長い行列が映し出されていた。

中御門創一、二十五歳はその石を見たいと強く思った。異なる星の石の持つオーラは、特別な感覚を俺に与えてくれる、そんな気持ちになっていた。

その日は車で一時間ほどかかる場所にある、重要文化財の神社の改修工事の引き渡し日だ。緑豊かな田舎にあるその神社に、棟梁の愛車四トントラックの運転手として創一は付き添いするよう言われていたのだ。

完成したので引き渡しますよと住職さんとお茶を飲み、工事の目録を渡すことが目的だ。工事の残金は後日、棟梁の口座に直接振り込まれることになっている。一連の手続きが終了すると、創一は急いで帰宅した。

─きっと、この六枚の板を組み合わせると木箱になるのだろう。

創一は組み合わせを考え、畳の上に六枚を並べた。黒地に赤の竜、黄色地に青の竜の二体が厚い木片に刻まれている。つなぎ合わせるにはどの組み合わせが良いのかを探った。

青と赤の色別に、体の膨らみ加減を合わせて考えた。パズルの組み合わせだ。縦置きの一升瓶が二本入るくらいの木箱が思い浮かんだ。

縦と横の組み合わせは決まったものの、重大な問題が生じていた。組み立てる手法だ。木箱の持つ威厳、繊細で大胆な竜の模様を損なうような取り付け方は駄目だ。

見事な色彩と、細部にまで丁寧に彫り込まれた模様。頭に浮かんだのは、木工用の接着剤で張り合わせること。しかしこれでは、へりにある竜の模様が隠れてしまい原型にはならない。

次に思い浮かんだのは『蝶番(ちょうつがい)』。箱の蓋を開閉できるようにするための金具。でも、これも違うだろうと創一は思案した。

人工物の蝶番を木部にネジでとめることには抵抗があった。芸術品にネジを立てることはどう考えても……この木箱に合わないと考えたのだ。この木箱から漂う神秘的な尊さが創一にそう思わせていた。

 

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