【前回の記事を読む】「家に金ないんだからさ、選択の余地無し! オレは働いて成り上がる。柔道じゃ飯食っていけないし」中学卒業後の進路の話題で…
一
たいしたこともない中学最後の集まりだったが、いつまでもたわいのないことを話し続けて、なかなかみんな帰らなかった。
「それにしても、このもんじゃ焼き、よく食べたな」
マコトが言うと、みんなが異口同音に
「本当だよ。カホのお母さんには、よくしてもらったな」
「そんなことないわよ。みんな来てくれるの、お母さん、いつも楽しみにしていたもん」
「カホ、お母さんとみんなで写真撮ろうよ」
「あっ、それいい、タッキーに賛成」
「カホ、お母さん、呼んできてよ」
「えっ、お母さんも、いいの?」
「もちろんだよ、お母さんのもんじゃ焼きで、僕らは育ったんだからな」
「お母さんともんじゃ焼きチーム」
「あっ、それいいね、カホからお母さんに変更!」
僕ら四人とカホのお母さんは、もんじゃ焼きを前に、一緒に写真の中に収まった。これからの僕たちの運命などは、誰も知る由もなかった。
二
中学を卒業して十年が経った。同じ街で育った僕ら四人は、まずマコトが働き始めて、めったなことでは会わなくなった。同時にユーも街を離れてしまい、ほぼ音信不通。
僕とカホはたまに町で偶然会ったら立ち話をする程度の間柄になってしまった。僕はカホを意識はしていたのだけれど、どうにももう一つ、二人の間を縮めるような言葉を出せなかったのだ。みんなどこで何をしているのか、定かでない時があっという間に過ぎていった。
そして街の中心で大きな土台工事が始まった。いよいよスカイツリーの建設が始まったのだ。
ユーから突然、家に電話があった。それまで年賀状がくるくらいで、僕たち四人の中では、もっとも何をしているか分からないのがユーだった。そのユーが十年も経った今頃になって、僕に電話をしてきたのだ。
「いやっ、久しぶり。ユーだよ」
「どうしたんだ、突然、電話してきて、近くにでもきたのか?」
「いや、そうじゃないんだけどさ、ちょっとタッキーに会いたくなってね」
「まさかゲイにでもなって、俺にアプローチしてきたか?」
きゃっ、きゃっ、きゃっと昔ながらの高いユーの笑い声が電話口でした。まともに十年も会っていないのに、声を聞いただけで、昔に戻れるもんだなと、僕は話しながら思っていた。