一
「俺の家だって、そんなに楽じゃなくてさ……」
何か話さなくてはと思い、僕はやはり池を見つめながら言いかけた。
その時、ふっと重いものが僕の左肩にかかってきた。カホが僕の肩に倒れかかったように少しだけ寄りかかってきたのだ。
僕はしばらく動けずに、何も言えずに、そのままにしていると、カホの少し泣いているような声がした。そして小さな声がした。
「ありがとう」
僕は何も言えずにうなずくようにした、カホにも分かるように。カホはきっと誰にも相談できずにずうっとその想いで胸がいっぱいだったのだろう。
それがはじけたような、そんな感じだった。僕は黙ってまたうなずくような素振りをした。カホは立ち上がり、僕に向かって、言った。
「わかったわ、すぐに決めないで、もうちょっとたったらお母さんに聞いてみる」
ようやく僕も立ち上がったカホを見上げた。
「おっ、そうか」
「タッキーに相談してよかった」
今日はじめて見るカホの笑顔だった。
「おっ……そうか」
僕は意味もなく言い、カホを見つめた。
「ありがとう」
そう言ってカホはそのまま東屋を出て、なかば走りながら公園を出て行った。
僕は何も言えずそのまま夕闇に消えていくカホの後ろ姿を見ていた。僕がいつ、どうやって家に帰ったのかは、覚えていない。
真っ暗な公園を歩いてきたことも、家に入るとき母さんが、食事だよって言ったことも、何も覚えていない。何かとても甘い時間が過ぎていたような気がした。
そのまま布団の中に入って、僕はカホのことを想っていた。といって何を考えていたというわけでもなく、公園で僕の肩に寄せられたカホの感触だけが漂っていた。そして、そのまま眠ってしまった。