【前回の記事を読む】多くの“くノ一”は、上の指示で好きでもない敵の男を女として秘術を尽くし籠絡しなければならない。彼女が選んだ道は…

忍びの者

太一は自ら持っていた木刀を捨て体術で挑む。体術とは骨法や柔術など日本古来の古武術であり、骨法は手や肘、膝での打撃技を用いた体術である。

太一は初音の膝裏を攻撃し、倒すとそのまま組み敷いた。そして、初音の柿渋色の忍び装束の上から左手で、まだ膨らみの小さな初音の右胸を掴んだ。

その瞬間、初音の全身から力が抜けた。初音は女としての反応をしてしまったのだった。太一は、抑え込んでいた初音から離れた。

「だめじゃないか。力を抜いてしまって」

「……」

初音の目が潤んでいる。太一も女としての反応を見せた初音の気持ちを十分わかっていて、内心嬉しくもあったが、心を鬼にして厳しく当たった。

「しっかりしろ! 男は皆かようなことぐらい当たり前にしてくる。今日はもうやめた」

組み敷かれたときのままの姿勢で身動(みじろ)ぎもせずにいる初音を残し、太一は去っていった。

(ほかの男とだったら、抗い戦い続けることもできたのに……)

初音は太一の気配が完全になくなるまで、森の中にじっと横たわったままでいた。