その風防の後ろで、年配の頭のてっぺんが禿げ上がったおじさんが、飴細工を、慣れた手付きで作っていた。

まだ少年の抜け切らない仙一は、引き寄せられる様にその屋台に近づいていくと、完成したばかりの飴の猿を、割り箸に凧糸で取り付け上下に動かし、「さぁ買った買った」と、仙一達に促した。

横にいた一夫が、我先にといった勢いで「それなんぼや、儂が買うわ」と言って握っていた百円札をおじさんに差し出した。

猿の木登りは手が込んでいて少し高い。と言っても飴の事で、子供でも買える金額ではあった。仙一が買おうと思っていた矢先又、一夫に先を越されたがいつもの事なので、仙一も特に、腹も立てず驚かない。

一応一夫は先輩だし、それに本当に欲しかったらもう一つ言えば作ってもらえるだろう。

仙一は、糠に残した兄弟への想いもあって、一夫には何事も自然に譲る様にしていた。一夫の方が一年年上なのに、体格と行動や言動も含めて、二人を見る限りどう見ても一夫が年下に見える。仙一も、内心は穏やかでない時もあるが、諦めに似た感情が一夫に対しては支配的である。

何より一夫の、仙一に対しての甘えが、二人の気のつかないうちに、仙一の寛容さと抱擁力を鍛えていた。ところがその時、飴細工を巧みに作り上げていく、おじさんの作業に見とれていた女の子が、その飴色に灼けて変色したビニールの風防越しに仙一と目が合った。というより彼女は、最初から仙一を見つめていた。

 

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