2.夜店の少女

ある日の夕方、一夫が「後で夜店へ行かへんか」と、食事の後片付けの時に誘ってきた。

仙一が「おう、ここ片付けたら行こか」

三役の川端が、食事の後片付けは仙一に協力するよう一夫に言いつけていた。

一夫にしても、その作業は仙一が来るまでもやっていた事だから、慣れた作業ではあった。

毎月3回6の付く日、天気が良ければ夕方から丹波橋通りに夜店が出た。

夜店といっても、ちゃんとした屋台は少なく、大概は地面に国防色のテント地などを敷いたりした安物の即席店だったが、その方が店を終わる時は瞬時に仕舞える利点もあった。

真夏なら、家庭によっては明るいうちから行水をし、子供達は綺麗な浴衣を着せてもらって家族で出かける夏の風物詩で、セルロイド船、風船つり、輪投げ、金魚すくい、飴細工、綿菓子といった、大概は子供向きの店で構成され、電柱から引いた裸電球が周りを照らす。

早くから暗くなる秋には、5時前から人々がめいめいの出で立ちで出かけて夜店を楽しむ。

秋も大分深まりつつある今夜で、今年は最後の夜店になるだろう。

仙一は、夕食の後片付けを早々と終い、百円札を数枚ポケットにねじ込んで、すり減った下駄を素足に引っかけ、一夫と夜店に繰り出した。

夜店の店先を歩いていても、一夫とは頭一つ分の差があり、遠くからでも仙一はよく目立つ。

昼間の営業が終わり閉店された商店のシャッターの前で、自家発電機の小さなコンプレッサーが音を立てて裸電球で照らし出された小さな飴細工の店。

店といっても、自転車後部の荷台に設置したビニール張りの風防が付いた簡素な物で、移動が楽な作りになっていた。