慎ちゃんが顔を洗おうと家の中を探し始めました。
「母さん、洗面所はどこ?」
「外ちゃ。玄関前の道を渡ったら小川があるき、そこで洗ってね」
言われた場所に行くと、幅三十センチほどの小川が流れていました。水はとてもすみきっていて、手ですくうと冷んやり。
(魚はいないかな……)
しゃがんで目をこらして川の中をのぞきこみましたが、一匹もいません。
すぐに、弟の譲二ちゃんと妹のまち子ちゃんたちも来ました。
「にいちゃん、何しちょーと?」
「見てみ、きれいな水……。二人とも顔を洗って」
「うん」
答えた二人は小さな手で水をすくい、ぴちゃぴちゃと顔を洗います。
朝ご飯です。
顔を洗って家に入ると、食卓の上に、何やら黄色いものがあります。
なんとバナナです!
日本では高くてなかなか買ってもらえないバナナの束が、目の前にあるのです。
「母さん、これバナナだよね!」
「そうよ、バナナよ。バナナはね、この国ではたくさんできるとよ。だからたんとお食べ」
母さんはバナナの束から一本一本もいで、慎ちゃんたちに手渡しました。