【前回の記事を読む】物の価値を無意識に値段で捉えてしまう大人。何も感じなかった絵が、数億円すると知った途端に見る目が変わってくるというように……

第一章 認知症におけるEQ

 共感する能力

診察時に私達が使用する手法に「ミラーリング」という技術があります。

初診の患者さんが来られた時などは、診察する私にとってもですが、患者さんにとっても初対面の会話になります。そうすると患者さんは緊張して頭に血が上ってしまい、話したいことの半分も話せないなんてことになりかねません。

問診の一番の目的は、病気の診断に必要な情報をたくさん聞き出すことです。意外と重要な情報でも、患者さんは関係ないと思って話さないことも多いのです。

とにかくリラックスしてたくさんの話をしていただく中から、そんな重要な情報を見つけ出さないといけないのですが、患者さんが緊張で頭がまっしろ、早く診察を終わらせたいなどと思っていると、なかなか話を聞き出せません。そんな患者さんの気持ちをほぐすために使われる手法の一つがミラーリングです。

ミラーリングとは単純に対面した会話の相手のしぐさをまねることです。あまりあからさまに行うと、バカにしていると思われて逆効果ですが、患者さんにもわからないようにうなずくタイミングを合わせたり、手を動かしたりしていると、自然に会話の空気が合ってきて会話が進むことがあります。

またミラーリングとは異なりますが、とりあえず話を否定せず傾聴するなどの方法もあります。人の心の中には協調してほしいという同調を求める欲求があります。

ですから診察室での初めての対面で、診察者に会話のタイミングを合わせてもらうなどして気持ちよく話せるような環境をつくってもらうと緊張がとけるのですが、これは自分の気持ちに協調してもらっていると無意識に感じるからなのです。

一方で会話がすれ違ったために、感情的な問題を引き起こすことがあります。男女の会話のすれ違いの大きな原因は、この同調欲求への無頓着さにあると言われています。

女性が何か相談する時、実際は結論がすでに出ていることが多いことに、ある時気づきました。なぜ気づいたかというと、妻からの相談の途中でその相談内容の解決策を私が話し始めると妻はおもむろに眉間にしわを寄せたり、そっぽを向いたりしだすからです。どうも私の解決方法を聞くのが苦痛のようなのです。