高明は懐の懐紙を咥えると、やわら、鞘から太刀を抜き、本身を眼前にまじまじと晒し、東側の庭に面した方へ向きやった。

「血を吸うて、おるな?」

マムシに向かい、高明は放った。「はぃ(へぃ)過日、北から攻めて来た見知らぬ輩共を断ち切りました」マムシも直答で応えたが、自身の田舎臭い発音に恐縮した。

「北から攻めて来た見知らぬ輩とは?」

「はい、山を越えて参りましたが、言葉が通じませなんだので」

マムシは、発音を気にしながらも、少し開き直った様に答えた。

「しかし丸腰の者を切ったのか?」

マムシの小太刀には、〝刃毀れ一つ〟なかった。

「トンでもございませぬ。奴等から襲って来ました。しかも鈍(なまく)らな大刀で斯様に」此処では、手振りを加えて答えた。

「鈍らな大刀とは?」

忠賢は、その様を見て、自身の興味を抑える事が出来なくなって来ていた。

「折れた実物は、か」

〝かかぁ〟と言う通常(いつも)の言い様で話しそうになった言葉を喉の奥に押し止め、

「いや愚妻が使用しておりまする。振り下ろして来ましたので、区(まち)の部分で受けましたが、相手の大刀は、受けた場所から〝折れた〟ので、鈍らと呼んでおりまする」マムシは俯いたまま、忠賢の食いつきそうな言葉で答えた。

今日は此処で投宿し、都からの検非違使の到着を待つ事が、予め決まっていた。

師の藤原千晴を含め囲炉裏端には、この荘園の管理者ではなく、マムシが呼ばれていた。台盤所(台所)から膳が運ばれてきたが、その女中の一人がマムシの妻であった。

彼女は予め夫に言い含められていたらしく、北から来た異邦人の所有していた大刀を夫が、加工した包丁を持参して来た。

此処は、高貴な三人の武辺の者にとって、格好の実験場と化した、出された夕食には、都で普段食する夕食(ゆうげ)に比べかなり豪華であり、瀬戸内の新鮮な魚が、まんま焼き魚の状態で饗されていたので、早速これを使って切れ味等(など)の吟味が始まった。

 

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