【前回の記事を読む】【小児科入院】「やっぱりクリーンルームや」「誰か死ぬのかな、誰が死ぬんやろ」――消灯時間を過ぎても外が静かにならなくて…
やさしさの詰まった手術と兄のやさしさ
「はい、面白かったです」と機械的に答えると、
「リアクション、うすっ! 面白かったら、笑ってくれよ」と頭を掻いていた。
後ろにいる看護師さんは、口を押さえながら笑っていた。説明が終わり待合室で病棟の看護師さんを待っていると、さっきの看護師さんが部屋から出てきて、
「あの先生面白いでしょ。腎生検を受けるのは大人の人が多いのよ。子どもはホント少ないから、どう説明したらいいのか悩んでいたんじゃないのかな。で、あの卵の説明、昨日から考えていたみたいよ」と教えてくれた。
僕のためにここまでしてくれたんやとうれしくなると同時に、あのゆで卵は誰が食べるのだろうと思うとおかしくなった。
手術の日は雨が降っており、部屋から外が見えなかった。落ち着かない僕に、たっちゃんが、
「手術は、気絶するまでが勝負やで」など、茶化しに来た。
僕は思わず笑ってしまった。兄はいつもと同じように見えた。両親も手術前に面会に来て、特別に会わせてくれた。病室を出る時に、初めて兄が、
「頑張ってこいよ」と手を上げて言ってくれた。
たっちゃんとヤマト君、ヒロシは親指を立てて見送ってくれた。
看護師さんと両親、そして僕がエレベーターに乗り、手術室まで降りた。エレベーターが手術室のある階に止まって少し歩くと、看護師さんが振り返って両親に、
「ここまでしか入れませんのでね」と言った。
父も母も、
「心配いらんよ」
「外で待っているからね」と言ってくれた。
僕は変にテンションが高くて、
「うん、頑張ってくる」と言って手を振り別れた。
手術室に入りキョロキョロしていると、
「田中君、頑張ろうな」と目の前に来た緑色の服を着た先生が言った。
“テレビなんかで見る手術の服や、すごいなあ”と思って見ていた。その先生は大きなマスクをしていたため誰かわからなかったので、「はー」と気のない返事をすると、
「相変わらず、リアクションうすいなあ。ゆで卵の先生やんか、もう忘れたんか」と笑いながら言った。