2月9日(火)

ダニエル・バレンボイム

そのうち年をとって(バレンボイムと私は同い年である)、私は慌て始めた。バレンボイムを聴くためにドイツへ行こうかと思った。しかしピアニストとしてのバレンボイムのチケットを、どう確保すれば良いのか。指揮をするバレンボイムを、私はピアニストの余技くらいにしかとらえていなかった。

そのうちに私自身の興味が、ピアノや歌曲、交響曲から、オペラに移った。歌舞伎をはじめとする芝居、バレエ、オペラ、つまり「舞台芸術」と呼ばれるものに移ったのである。これは急激な変化だった。

その中で、オペラの世界におけるダニエル・バレンボイムの存在が、大きなものであることを知った。私はバレンボイムの指揮するオペラを観たいと思った。しかしこれは更に難しさが予測できた。私は、スカラ座の 「トスカ」は僥倖から入手できたが、オペラ座「カルメン」はいかなる席も取れなかった。

バレンボイム指揮となれば、劇場がどこであれ、そして演目いかんによらず、入手は困難であろう。そこへ今回の「ブルックナー・ツィクルス」の発表があった。しかもピアノの弾き振りがあり、それも半端な選曲でない。発売冒頭、確保した。

以来、今日の日を、待ちに待っていた。

良子の病があり、兄の死があった。私は正直、死期の近い兄が、3月まで長らえてほしいと願っていた。良子の場合は、それがどういう形であろうと受け入れる覚悟をした。しかし幸い、今日の日を迎えることができた。

スタートはモーツァルトのピアノ協奏曲27番。

最初から、結論のような曲である。