次の朝、冷え込んだが、ボランティア仲間で都合がついた五人が、〈大樹伐採反対〉のビラを私鉄駅前で配った。署名ももらい始める。もちろんボランティア仲間でも沙那美の意見に反対の人もいた。

「樹って鬱陶しいじゃない、伐ったほうが明るくなって良いわ」と言う。しかしおもったより賛成してくれる人も多かった。自画自賛になるが、五人も集まれば、御の字だとおもっていたから……。

早速、沙那美は山森先生に電話した。

「おかしいですね。うちの財産区ではいわゆる先住民、新住民の区別なく七人の役員の委員会方式で運営してますよ。市町村合併したときの住民いわゆる先住民、別の呼び名では旧村人だけで運営するのは法律違反の疑いがあります。もし独占せざるをえないときは、森林組合みたいな特別な法人を立ち上げる必要がありますね」

それが山森先生の見解だった。

「恥ずかしいことを尋ねますが、そもそも財産区って何なんですか?」と沙那美。

「市町村合併したらすべての財産を合併市に召し上げられるのは酷やという発想です。それで合併時に持っていた町村の財産を一部保留してその利益を元の町村のためにみんなに還元する制度です。

たとえばウチの場合は、財産は町の背後の山です。山を別荘や会社の保養所用地として貸し出し、その上がりで町の公民館やお宮の管理運営費の一部を支援しています」と山森先生は言葉を継いだ。

自治会長が会員に相談せず事を進めるのは、菩提樹の保全を議論するうちに一部の人たち、いわゆる先住民だけで財産区を運営していることの違法性が明るみに出て、既得権を脅かされることを恐れているのだ。

次回更新は4月14日(月)、22時の予定です。

 

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