沙那美は、穏やかな顔で言った。
「美しい顔して何を言い出すんや。その必要はない。あんな菩提樹より歩行者の安全安心が大切や。総会にかけたら、あんたらのような意見を言う人がいるから収拾がつかなくなる。これは氏子総代の問題や。もっとも村会からお宮には祭りの山車 (だんじり)出捐費を出してるけどな」
「美しい顔、それはセクハラです。それに、あんた、とはなんですか。このことは長老たちで決めることではないし、自治会長の権限で決めることでもありません。村会? 時代遅れな? 先住民も何もないんです。今の町の問題です。村のおじさんたちだけで決められたら、たまったもんじゃないわ」
沙那美は会長の立ち場の辛さを理解しているつもりだったが、沸騰しそうな気持ちを必死で堪えながら冷静でなければ、あの菩提樹は救えないと自分に言い聞かせる。でも沸点に近い。会長にはさぞ、醜い高飛車な女と見えるだろう。
「自治会総会を開催すればええんやろ?」
会長は頭にきたらしい。若い女性の対応に慣れていないせいか、次第に言葉もぞんざいになっていった。
「そうしてください。村なんて今はもうないんですからね。現在の住民の意見の総意で決めましょうね」
「生意気な……」
会長の声が歪んだ。