【前回の記事を読む】理不尽な教師のいじめに苦しむ友――我慢できなくなった僕はほかの教師に相談するが…

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試練と寂寞

「あいつは野球が下手だから」

今日こそは一緒に帰ろうと野球部の部室のまわりをうろうろしていた僕の耳に、滝沢の女みたいな声が聞こえた。

織田先輩の目にも余ったのか、どうやら織田先輩が今日の練習のさせ方を滝沢に抗議してくれているようだった。

そうだ、だいちゃんには織田先輩という強い味方がいた。世の中、捨てたもんじゃない。織田先輩カッコいい、もっと言ってやって、と僕は心の中で織田先輩にエールを送った。

「あいつの取り柄なんて、体だけだよ。実際野球にもなってない、だから今から徹底的に仕込むんじゃないの」

なんてひどい言いようだろう。やっぱこいつクソだ、ほんと嫌いだ、とむかむかと腹が立って、それは時間が経っても収まらず、自分のことのように怒りながら僕は並んで歩くだいちゃんにいつまでも滝沢の文句を言い続けた。

「いいべ、ほんとのことだし」

思ったよりもけろっとして、だいちゃんはそう答えた。

「平良先生もいつも言ってた」

「嘘だよ、そんなの」

だいちゃんは何を言っているんだろうと、僕は口をとがらせた。

「違うんだって。あいつには悪意しかないけど、平良先生の言ってるのは、そういう意味じゃなくて。俺が一年の時、お前のいいところはその体なんだ、ってめちゃくちゃ力説されたんだ。

体格に恵まれることがどんなにすごいことか、わかるか大樹!って。生まれ持った恵まれた体は財産だ、お前は骨格が素晴らしいんだ、って。

これからの成長期にしっかり運動して成長ホルモン刺激して、つけるべき場所に質のいい筋肉をつけろって。そのために今はしっかり体作りに励め、技術なんてその後だ、両親に感謝しろよって」

平良先生がいなくなっても先生の教えがだいちゃんの中にちゃんと生きていることを感じて、僕は改めてだいちゃんの平良先生への信頼の大きさを思った。