その日の夜、僕はアンナの事を考えていた。
アンナのあの目に見られると、世界の全てが奪われて、僕はアンナの事しか考えられなくなってしまう。
僕の目にはアンナしか映らない。
僕とアンナは同じ星の下生まれて、出会った。
でも生まれる前も、昆虫や花やプランクトンや恐竜や魚や豚や別の人間で、別の心と身体を持っても、僕たちは愛し合っていて、生き物としての営みをしていたんじゃないかって、輪廻転生の中で俺たちは幾千回と互いを満たし合って、永遠の愛を誓ったんじゃないかって、僕はそう思ってアンナの方を見た。
アンナはペンを執っていた。友達に手紙でも書いているのだろうな。
僕はアンナのペンを執るそんな姿を見ながら妄想の続きを楽しもうと思考を巡らせた。
ああ、アンナ、僕の愛しいアンナ。
貴女に言われたらタバコだってきっと一日で止めるだろう。
でも貴女は僕が貴女を愛し過ぎている事を知っていて、きっとタバコを止めてしまうだろうなって、そう思って言わずにいてくれているのかい。
愛しいな、アンナ。
僕はタバコが大好きだから、そんな僕からタバコをアンナの吐く言葉で奪ったら、煙を吸う事を、貴女の息を吸うかの様に僕が言葉を飲んで止めてしまって、貴女は罪悪感に苛まれるんだ。僕は貴女がタバコを止める事を望むなら、貴女の希望なら何でもなのだが、無論叶えてしまうんだ。
貴女の罪悪感を拭ってやって、みんな幸せで僕はタバコを吸わなくなる。
世界から喫煙者が一人消えて、みんなみんなアンナの言葉で吸わ無くなったのなら全員消えて、一人また一人と幸せ者が増えていくんだろうな。
無論アンナも幸せなんだよ。
僕の口が歯磨き粉の匂いがする様になって、キスもヤニの味がし無くなって、アンナの口はキスの後の僕の残り香を味わう。
タバコを吸う時間がアンナへの愛を囁く時間に代わる。
君の耳元で小鳥が歌う。
僕は小鳥さ。
アンナのために飛んで、歌って、愛を運ぶんだ。
世界一愛しいアンナ、君の下へ。
何便だって飛んでやるさ。