わたしはよくもそんな鶏たちの世話を何か月もしたものだ。鶏たちが保健所に連れて行かれるその日、鶏小屋の扉をわたしが開けた。するとその時、事件は起こった。
バサバサーっとものすごく大きな音を立てて、一番大きくて凶暴なボス鶏がなんとわたしの左肩に止まったのだ。あまりにびっくりしてしまって、一瞬何が起きているのか飲み込めずにいた。
怖くて怖くて、少し冷静になると、だんだん周りが騒がしくなってきて人が集まってくるのがわかった。さらに、なんだか左肩がじんじん痛むことに気づいた。どうやらそのボス鶏の足のかぎ爪がわたしの肩に食い込んでしまっていたのだ。
まわりに集まってきた、先生方がなんとか鶏をわたしの肩から降ろそうとしてくれたけれど、なかなかかぎ爪はしぶとかった。校長先生が保健室に言ってマキロンを持ってきてくれた。それを塗りながらなんとかわたしの肩からかぎ爪を外してくれた。
鶏が降ろされた時には、我慢していた涙が一気にとめどなく流れて、しばらくの間止めることができなかった。ほんの数分だったと思うが、何時間もの長い長い時間のように思えた。
あの時の左肩に感じたじんじんした痛み、生臭いボス鶏のにおいが、ずっと今も昨日のことのように思い出される。もともと肉はあまり得意じゃなかったけれど、これ以来わたしは一切鶏肉が食べられなくなってしまった。
大人になって何度もトライしてみたけれどやっぱりあの時のことが蘇ってきてだめだった。ボス鶏は普段凶暴だったけれど、あんなふうに暴れて人の肩に止まるようなことはしたことがなかった。
もしかしたら、彼なりの「今まで面倒見てくれてありがとうね」をわたしに伝えようと必死だったのかもしれない。あれ以来、動物もあんまり得意じゃなくなってしまって、自ら近づいていって触れたりすることはなくなってしまった。
でも、ちゃんと向き合えば、動物にだって、一生懸命の気持ちは伝わるのかもしれないな、とこの時、感じたのだった。
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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