彼女は、どんな思いだったろうか……。断る私も辛かったが、そうするしかなかった。

5人目は画家さんだった。デパートの絵画展で『初夏の奥入瀬』の絵を見ていっぺんに魅せられてしまった。迷った末に画家のご夫婦と会って購入を決めた。穏やかな顔をされた老夫婦だった。

奥様は「夫は毎年のように、何度も奥入瀬に入り描き続けているんですよ。奥入瀬の絵で、アトリエはイッパイですよ」とニコニコしながら言う顔が優しかった。購入した絵は自宅のリビングに飾った。セセラギが聞こえて来るような初夏を感じる、爽やかな絵画だった。その後もご夫婦とは、年賀状でのお付き合いをしていた。

ある年末、画家から珍しく電話が掛かってきた。「家内が病気で倒れ、お金が必要なので、絵を買って欲しい」と言ってきた。驚いた私達夫婦はお見舞いの品を持ち、指定された場所に行った。

すると奥様がニコニコして、そこにいる。私は「お身体の具合は大丈夫ですか」と、お見舞いの品を出しながら聞いたが、すぐに画家から『秋の奥入瀬、ライラックの花、赤い薔薇』の3枚の絵を見せられて、絵の話になってしまった(奥様が本当に病気だったかどうかは未だに分からない)。

私達は1枚だけ絵を買うつもりで、お金を用意していたが、支払いはいつでも良いから、3枚買って欲しい、と頼まれて結局3枚の絵を買うことになった。しかし何日かすると、画家から「すぐに残金を全額支払ってくれませんか」と連絡が来たので、私はすぐ振込んだ。

その後も何度もお金に困っているので絵を買って欲しいと、手紙や電話がサロンにまで来るようになり、私は居留守を使うようになってしまった。素敵な絵を描く人なのに、残念だった。

私は「依存コードを結ばれてしまい、試されている」と言う言葉を思い出した。私のお節介や優しさは、甘さでもあることを改めて知らされた。そんな私は、時には人を安易な道に行かせてしまうことがあるのかも知れない。そしてその人は、大切な学びをすることなく、素通りしてしまうことがあるのかも知れない。人生どうするか試されているのは、私自身かも知れない。