【前回の記事を読む】H5N1型強毒性インフルエンザが日本を襲う――医療崩壊の悪夢を描く警告小説

Ⅲ 「感染小説」、その概要とあらすじ、私的感想

『首都感染』/高嶋哲夫/講談社文庫(2010年11月発行)

【作品概要】

中国でサッカーワールドカップが開催されている年に、致死率60%の強毒性インフルエンザが発生した。首都圏内にもこのウイルスによる感染で東京都内の封鎖がはじまった。

【あらすじ】

第一章 対策

東京都四谷にある黒木総合病院に内科医として勤務する瀬戸崎優司は、WHOのメディカル・オフィサーとして勤めたことのある感染症の専門家であった。黒木院長は優司が立案したインフルエンザ対策のレポートを読んで優司を対策チームのリーダーに依頼した。優司はWHOに勤務する元妻の里美から「中国の雲南省で強毒性のインフルエンザが発生した可能性が高い」との報告を受けた。

一方、日本政府も中国の国境付近でH5N1新型ウイルスの感染が発生している事実を掴んでいるとの情報を得た。実は、現総理大臣・瀬戸崎雄一郎は、優司の父であった。優司は政府のインフルエンザ対策本部に参加するよう父の総理から依頼されていた。

時はあたかも中国ではワールドカップが開催されており、中国と日本がベスト4を決める準々決勝が行われ日本が敗れた。数日後、北京にいる日本人の帰国ラッシュがはじまる。日本政府は、感染拡大という深刻な事態に対応するため国際空港での中国航空機の受け入れ拒否に対する対策を検討しはじめた。

第二章 感染

中国ではワールドカップが中止され、中国政府より国内での新型インフルエンザウイルス感染発生の発表があった。WHOカオ事務局長から「世界のインフルエンザ感染者が2500万人、死者500万人に達している」との発表があり新型ウイルスの致死率の高さに世界が驚愕した。日本では、羽田、成田、福岡、関西、中部の国際空港到着の中国旅行者から多くの感染者が発生したとの報告が続いた。瀬戸崎総理から全国民に「すべての国際線を停止する。全国の小学校、中学校、高等学校を閉鎖する」との呼びかけがあった。

しかし、羽田空港での封じ込めが破綻し感染が都内に広がりさらに全国に拡大していくのは時間の問題になってきた。優司は瀬戸崎総理に首都封鎖を進言した。

東京に残っている衆・参議員による臨時国会で首都封鎖案が可決された。