肩の高さほどの真っ白な壁に囲まれた路地から民家の庭を見ると、石畳のあちこちに花壇があり、パラソルの下にはテーブルと椅子がある。貧しい島と聞いていたが、まるでヨーロッパの邸宅の庭のようである。

川のほとりにある船着き場に着くと、ジャカルタから来た大学生男女八人と一緒にエンジン付きの大型ボートに乗り込んだ。どうやら人数がまとまるまで民家で待たされていたようである。

私と八人の大学生を乗せた大型ボートはポンポンポンという軽快なエンジン音を立てて川から海に出た。やがて、左手に見えていた大きな島も見えなくなり、視界は三百六十度、見渡す限り、真っ青な海だけになった。

シティの説明だと一時間少々で着くとのことであったが、いつまで走っても紺碧の海と雲一つない真っ青な空以外何も見えない。ここでエンジンが止まったら漂流するしかない。救命胴衣は着けていたが、このボートが転覆でもしたらサメの餌になるかもしれないと思うと、段々、不安になってくる。そして、こんなところに来るのではなかったと後悔した。

出発してから一時間半ほど経ったが、まだ、船は同じ調子で走り続けている。もうどうにでもなれと開き直っていると、水平線の彼方にぽつんと小さな島が見えてきた。私はひたすらその島が目的地であることを願った。

ボートはエンジンを止め、チャプチャプ音を立ててゆっくり海岸に近づいていった。下を見ると、濁りのない透明な海水の下に珊瑚、正面には真っ白な砂浜と緑の森、その背後には紺碧の空が広がっている。写真集などで見るトロピカル・アイランドそのものである。

本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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