「俺もやれるだけのことはやっている。彼女の望み通り刑事課に入れてやったし、一緒に食事もしている。人間関係は問題ない」

「仕事の方は?」

「やる気はあるがまだ駆け出しだ。仕事は期待していない」

「佐伯さん、あなた全然わかってない。ダメね」

梨沙は笑いながらワイングラスに手を伸ばしてワインを飲み干す。

「ダメって、何がダメなんだよ」佐伯もワインを飲み干す。

「彼女は自分の意志で刑事を希望するくらいの子なんだから、仕事をしたいの。仕事で成果を上げてあなたに認めてほしいのよ。それを理解しないでどうするのよ」梨沙は佐伯のグラスにワインを注ぎ、自分のグラスにも注ぐ。

「そんなことはわかっているよ。しかし今の彼女のレベルではいきなり成果を上げるのは無理だ」

「それを何とかするのが佐伯さんの役目でしょ?」

「じゃあ、どうすればいいんだ? 飛ぶ鳥落とす勢いの菊地課長さんに御指南願いたいね」佐伯は立て続けにワインを飲み干す。

「まあまあ、そんなに慌てないで。せっかくのワインが不味くなりますよ。せっかく二人で飲みに来ているんですから、少しは楽しみましょうよ」佐伯に向かってウインクをする。

「全く。梨沙にはかなわんな。いい男はできたのか?」

「今その話ですか? しらけるな~」

梨沙は佐伯の空いたグラスにワインを注ぐ。

「ごめん。その話はいいとして、どうしたらいいんだ?」

「他の刑事達と区別なく仕事を与えて、その都度必要なアドバイスを佐伯さんがするの。でも全部教えてはダメ。彼女に考えさせ、最後まで仕事をやりきらせる。この繰り返し。そして成果を上げた時は思いっきり褒めてあげる。今以上に関係が深まってきっと佐伯さんが求めている情報も手に入るわよ」

「区別なく、か。わかってはいるけど、なかなか難しいんだよな」佐伯は頭を掻いた。

「彼女は他の男の刑事達と対等な立場で仕事をしたいの。佐伯さんは彼女のその気持ちをきちんと受け止めなきゃ」

「わかったよ。やってみる」

「そう、やってみてください。ところで佐伯さん、彼女はタイプの子ですか?」梨沙がニヤニヤしながら顔を佐伯に近づける。

「いきなりなんだよ、俺と有田は上司と部下の関係だぞ? 確かに可愛い子ではあるけどな」佐伯が頬を赤らめた。

「いいじゃない、お互い独身なんだし。でもね、まずは仕事を認めてあげること。これに尽きるの」「わかったわかった。ご指導ありがとう。参考にするよ。梨沙からのアドバイスの件はゼウスにもちゃんと報告しておく」

「ここらでちゃんと結果を出さないと、ゼウスのことだから、いくらあなたが一番の懐刀でも結果を出せないとヤバいんじゃないかと思って。だって彼の逆鱗に触れて木端微塵になった人、何人も見てるし。何と言っても彼は全能の神、ゼウスだからね」

本連載は今回で最終回です。

 

【イチオシ記事】何故、妹の夫に体を許してしまったのだろう。もう誰のことも好きになれないはずの私は、ただあなたとの日々を想って…

【注目記事】娘の葬儀代は1円も払わない、と宣言する元夫。それに加え、娘が生前に一生懸命貯めた命のお金を相続させろと言ってきて...

【人気記事】銀行員の夫は給料五十万円のうち生活費を八万円しか渡してくれずついに…