【前回の記事を読む】あのクソ野郎が。せいぜい今のうちに楽しんでおくんだな。もう二度と、ホシの調べなどできないようにしてやる…
刑事狩り
「よし。ではみんな、所定の方針通り、引き続き改革を進めてくれ。以上」
「気を付け! 角田本部長に礼!」
司会の号令で全員起立し角田に頭を下げる。
角田が退室後、菊地が佐伯に近寄ってきた。
「佐伯さん、今日はいいとこ無しでしたね」
「ああ、正直言ってどん詰まりって感じだ」
「じゃあ今日はガス抜きも兼ねてお付き合い願います」
「こちらこそ、よろしく」この菊地は新人の時に角田に発掘され、その後メキメキと頭角を現して県警初、史上最年少で刑事課長となった優秀な人材だ。好き嫌いが激しく、誰からも好かれるタイプとは言えないが、神奈川県警の女性警察官達からの羨望の的であることは間違いない。
「佐伯課長の前途を祝して乾杯!」
「いやいや、俺じゃなく菊地課長の前途を祝して、だろ?」二人はワイングラスを合わせた。
「う~ん、これは美味い。菊地課長はよくこの店に来るのかい?」
「その菊地課長ってのはやめてくださいよ。他人行儀で嫌だわ」
「ごめん、じゃあ梨沙でいいか?」
「もちろん、それで」
梨沙はワイングラスに口を付ける。
「よく来るどころか、暇さえあればしょっちゅうですよ。今日は佐伯さんのためにこの店で一番美味しいワインを出してもらいましたから」梨沙が笑顔で答える。
「それはありがたいね。しかし梨沙のところは着々と成果が上がっているみたいだけど、そんなに厳しくやって不満は出ないのか?」「不満なんかしょっちゅうですよ。そんなことにいちいち耳を貸しません。しょせんは負け犬の遠吠え、悔しかったら実績を上げてみろって感じですよ」
梨沙はワインを何口か飲んだ後、グラスに付いた口紅を指で拭いた。
「たいしたもんだな」
佐伯は拍手するそぶりを見せる。
「佐伯さん、今日の会議で話が出た女性警察官のことだけど、どうなっているんですか?」
「ああ、ゼウスの指示でSにしたんだが、これがなかなかうまくいかなくてな」
「うまくいかないとは?」
菊地は佐伯をのぞきこんだ。
「規律違反を見たり聞いたりしたら報告をするよう指示をしたんだが、いまいち成果が上がらない」
「その子との関係は? うまくいっているの?」
「関係? ただの上司と部下の関係だ。うまくいくもなにもない」
「佐伯さん、なにか勘違いしてません? あたしが聞いたのは、人間関係についてですよ。まずは人間関係をしっかり構築するってこと」