「どうしました?」

男性の声だ。

「のどが渇いたので、飲み物をください」

「はい、少しお待ちください」

そして現れたのは、入院したとき部屋に案内してくれたのとは違う男性看護師だった。この病院は、男性患者には男性の看護師がつく決まりがあるらしかった。

経口補水液を手渡された。飲んでみたけど冷たくない。そう言うと、

「熱のあるときは、あまり温度差のない常温の飲み物にしたほうが、内臓に優しいですよ」と、彼は言った。

そんなもんかなと、納得した。

なぜこうなってしまったのだろう。この際だからよく、今までのことを考えてみようと思った。未成年のうちから、両親がいなくなり、私は路頭に迷ってしまった。

両親の離婚は、私の責任ではないが、今まであまりにも場当たり的に生きてきたから、こうなってしまったのだろう。

私が十六歳の夏、母が脳梗塞で突然死んだ。心の準備もなにもできていないままで、お金もなかったので、葬式も出せなかった。

 

次回更新は3月21日(金)、22時の予定です。

 

【イチオシ記事】何故、妹の夫に体を許してしまったのだろう。もう誰のことも好きになれないはずの私は、ただあなたとの日々を想って…

【注目記事】娘の葬儀代は1円も払わない、と宣言する元夫。それに加え、娘が生前に一生懸命貯めた命のお金を相続させろと言ってきて...

【人気記事】銀行員の夫は給料五十万円のうち生活費を八万円しか渡してくれずついに…