それが、なんでも便利センターだった。初めは詐欺をやる会社だとは思っていなかった。

もちろん、表立って会社ぐるみの詐欺をやるわけじゃない。表向きは看板どおり、なんでも屋だ。一般家庭に飛び込み営業して、仕事を取ってくる。裏の顔が相手の弱みにつけ込んだ、高額のサービスだった。

高齢者や未亡人の奥さん、奥さんに先立たれた男性は、話を聞いてあげるだけで、おもしろいほどお金を落としてくれた。一度成功体験を持つと、人間は歯止めが利かなくなる動物である。

僕は普通になろうと意識した時期に彼女と出会い、一生頭から離れない言葉を言われた。

この言葉を逆手に取って、自分の特性にしてやろう。卑屈であるということは、強いのだ。

へりくだりながらよく相手を観察して、ピンポイントで懐に入る。自分の特性を最大限に、活かす術を身につけた。身の上話も、かわいそうな僕を演出するのに役に立った。

そのときの僕は、住まいも携帯電話も持っていなかったこれまでの境遇を完全に忘れて、慢心していた。高齢者を相手にするときは、実際よりも自分を下に見せるほうが、プライドを満足させて相手がよい気持ちになる。

相手に施しをしている気分にさせるのが、より大金を出させるコツなのだ。この会社での僕の売り上げは、ダントツだった。

僕はいつの間にか、罪悪感が麻痺していた。

 

次回更新は3月15日(土)、22時の予定です。

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