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第一章 高学年の子たちと~分数から命の授業まで~
1. 新学期のあいさつは「人に迷惑をかけよう」
素直でおりこうさん、と言われる子が増えてきていました。全ての子がそうなっていると言っても過言でないほどです。しかし子どもらしい心は眠っているだけであって失われているわけではないと信じていました。
これまで大人の常識をそのまま押し付けられてきたことが多かった子どもたちには荒療治が必要と感じ、子どものもつ子どもらしさの復権を願って出会いからインパクトのある行動をとりました。
① 既成の概念にとらわれている子どもたち
「皆さんの担任になった宮﨑です。これからの一年間を一緒に良いクラスにしていきましょう」
新年度が始まって新しい教室で新しい先生と向かい合った緊張気味の子どもたちの前で、私は元気の良い挨拶をすることにしています。それは『新しい学年になったらこういうことにチャレンジしたい』『こういうことを直そう』と子どもなりに意気込み、期待して迎えた新学期の始まりをフレッシュに応えてあげるべきだと考えているからです。
『今年は何かが違うぞ、この先生と一緒だったら何かが変われそうだ』という子どもの思いは顔にも表れて伝わってきます。その思いに食い込んだスタートを切ることが学級経営の第一歩だと思います。
しかしその気持ちを逆手に取ったような扱いで、インパクトがいっそう強いスタートを切った6年生担任の年がありました。若い男の先生のフレッシュな挨拶に子どもたちの目も輝いて見えます。私は挨拶を続けました。
「先生は、一年間をこういうクラスでやっていきたいんだなあ」
と言いつつ後ろを向いて、黒板にゆっくりと『人』と書きました。そうして児童の方に振り向くと黙ってゆっくりと顔を見回し、何も言わずに『に』と書きさらにゆっくりと『め』『い』『わ』『く』『を』『か』『け』と、一文字を書いては子どもの方に振り返りながら書き足していきました。
子どもたちの顔はだんだん曇っていくように見えました。その顔は『なあんだ、この先生も他の先生と同じように、人に迷惑をかけないようにしましょうというのか。期待してソンしちゃった』とでも言いたげです。
私は『け』の下に○○と二つの○を書くと、一番前に座っているおとなしそうな子を突然指名しました。そうして、
「黒板のこの○○の中には何と書いたらいいかな」
と尋ねました。そんなことは分かりきっています。