「人の成長ってどうなんだろうね。何かが分かるとか、できるようになるって。その時が決まっているのだろうかね。このクラスは全員プールの縦をクロールで泳ぎ切ることができる。でも、川上さんのように一年生の時から泳げた子もいれば、松田君のように六年生なって泳げるようになった子もいる」
青木先生は「すまん」という表情を松田君に向けた。それでも松田君は嬉しそうに坊主頭をゴシゴシと掻いて笑った。
「森岡君は百メートルを十四秒台で走れる。でもオリンピックの選手は十秒台で走ることができるんだ。森岡がどんなに頑張っても、今は十秒台で走ることはできんだろうな。
でも、これから何年か森岡が努力し続ければ十秒台で走れるようになっているかもしれない」
青木先生は腕組みを解いて教卓に両手をついてから、声を落として続けた。
「『みずいろ』の子たちの中には、六年生だけど足し算や引き算ができない子がいる。でも、それは今はできないってことなんだ。できるようになるために毎日頑張っている」
夏生の頭に逆上がりの練習をする「みずいろ」の子たちと女の先生が浮かんだ。
「早いうちに分かったりできたりしたらば、それはそれで良いことだ。でも、人ってみんなそれぞれ違うじゃないか。スピードも様々じゃないか。『みずいろ』の子たちは、みんなより分かったりできたりすることは遅いかもしれないけれども、頑張り続けていることはみんなと同じなんだ。……と、俺は思っているよ」青木先生はそこまで言うとみんなを静かに見回した。
チャイムが鳴った。
ガヤガヤと動き始める教室で、青木先生は子どもたちにぶつかりながら夏生のところにやって来た。
「無藤、君に頼みたいことがある。『みずいろ』に六年生の女の子がいるんだが、その子と一緒に二人三脚を走ってほしい。彼女は右と左がまだ分からないそうだ。君がリードしてあげるように」