「あの~すみません」

窓口に座っている事務の女性に声を掛けた。

「はい? 何でしょうか」

事務の女性はパソコン画面から目を外して、あずみのほうを向いて答えた。

「申し訳ありません。実は先ほどこちらの待合いスペースで知り合いを見掛けまして……」

「はぁ……」

事務の女性は不審な様子であずみを見上げる。

「あの……それで知り合いは櫻井というものなのですが……先ほどけがをしたという患者が運ばれたみたいで……」

詳しくは知らないあずみだが、きっと真琴の知り合いがけがをして運ばれたのに違いないと思った。受付の女性には、患者の付き添いで来た者のことまで知りません、と突っぱねられるだろうと覚悟して聞いた。

ところが。

「先ほどけがをした……?」

事務の女性の顔色が変わった。

「はい。そのけがをして運ばれた患者の知り合いなのですが……。もう帰りましたでしょうか?」

「運ばれた患者の知り合い?」

「はい、そうです」

「あなたもその櫻井さんの知り合いなの?」

当たった!

「ええ。そうです。わたしも櫻井さんの友人です」

「そう」

受付の女性はうなずいた。

「それで、その櫻井さんは……?」

あずみは固唾を呑んで尋ねた。

「櫻井さんは一応処置が終わり、診察も済まされてご自宅に帰られました」

受付の女性の話からすると、けがをしたのは「櫻井さん」だという。

そして、そのけがをした「櫻井さん」のことを聞いて、駆けつけてきた真琴も「櫻井さん」だ。あずみの中で、ひとつの線が結びついた!

「それではそのけがをした櫻井さんも、もうひとりの方も、ご家族と一緒に帰られたのですね?」

あずみは慎重に尋ねた。

「ええ、そうです。お相手の女性は軽傷でしたが……。一応、落ち着かれたので警察の方が付き添って帰られました」

警察……⁉

受付の女性は、あずみが、けがをしたほうの「櫻井さん」の知り合いだと思い違いをして、ある程度、事情を知っているつもりで話してくれている。そして、確かに受付の女性は「お相手の女性」と言った……。ということは、もうひとりのけがをした人物は―?

「ありがとうございました!」

あずみは受付の女性にお礼を言って、外科をあとにした。目指すは真琴の家である。
 

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