その言葉に横川は嘘だ、嘘だと叫んだ。まるで現実を受け入れられないようだ。
「全ての始まりは、三ヶ月前の九月三十日、久原真波さんがこの静岡県藤市の藤山を一人で訪れたことから始まります。その時、久原さんは、一つの犯行を偶然にも目撃してしまいました」
「犯行って、犯人を見たということですか。しかしこの事件は久原真波さんの死体遺棄事件のはずですよね」
三好が声を上げる。
「私は大きな勘違いをしていました。この事件の手前にあるもう一つの事件です。失踪当初から久原真波さんの身辺を捜査しあらゆる可能性を静岡県警は考えてきた。そんなものあるはずがありません。久原真波さんが殺害された理由は、偶然にもこの藤山で犯人の犯行を目撃したことだったからです」
「三ヶ月前に久原さんは何を見たのですか」
栗林も焦(じ)れたように、うねった白髪をかきあげた。
「実は三ヶ月前に静岡県警の清水という捜査員が交通事故に遭いました。幸いにも命に別状はありませんでしたが、事故の原因はブレーキの故障でした。その事故の細工をしているところを目撃し、久原さんはその犯人によって意識を奪われ、蔵にある小部屋でおよそ三ヶ月の間、監禁されていたと推察しています。そしてあるきっかけにより昨日殺害された」