「きっと一人で受験するのが嫌なのかなぁ?」と言うと、ヨシいわく「ふん、そうかぁ……変わった奴だ!」

「西が何で俺を誘うのか理由がわからない」と不思議そうに言うと、ヨシは「面倒くさい奴!」と吐き捨てるように言った。

私は「どうしたらいいと思う?」と問い掛けた。

「本当に、しつこいやつだなぁ……殴っちゃえば!」とヨシは過激な発言をした。その言葉に共感した。西が自宅に訪れたら殴りはしないが、もっと強く言って、補欠募集の話を止めさせようと思った。

ヨシと銭湯で補欠募集を誘う西のことを話した翌日、西が再び、自宅に訪ねてきた。

私は、「しつこい、いい加減にしてくれ。昭和学園に入学金十万円を払ったから、都立高校の補欠募集は受けないと言っているだろう。もう誘うのを止めてくれ。俺からは用がない。つべこべ言わず早く帰れ!」と西の胸倉を捕まえて怒鳴ると、西は、冷静に諭すように「マツの父親の年齢はいくつだっけ?」と尋ねた。

私は、「父親は、五十八歳になった」と無愛想に答えた。

「そうするとあと二年で六十歳の定年だ。仮にマツの父親が働けなくなったらどうする? 保谷工の月謝は千円でアルバイトしながら払うことができる。父親の年齢をよく考えてみろ! 補欠募集を受験することを勧める。

それに、保谷工の建設科の卒業生は、公務員では、職種が土木で、東京都に採用されている先輩が多いぞ。事務職より土木職の方が試験のハードルが低いので卒業すれば公務員になれるチャンスがある! マツ、高校卒業したあとの将来のことをよく考えてみろ!」

と強く諭された。

私は、高校進学と将来のことを考えていないことに気付かされた。

学校が自宅に近いという浅はかな理由で決めたことが情けなかった。

西の胸倉を掴んだ手に力が入らなくなり、気が抜けて手を離した。