我輩は清掃人じゃ
4.第二の邂逅・第三は運命の女性の苦難?
太っているために体重もある。さほどの腕力もないはずじゃが、何物にも負けぬ人生じゃったために、これしきで敗北しておられんのじゃ。両腕様よ、力を与えたまえ。
思いっきり伸ばし思いっきり引く。繰り返し、三度目でようやく上半身がブロック塀を超えることに成功し、いちおうの汗は拭った。
けれども、お次は、腰を庭側で座り直し、両足までブロック塀を乗り越えなければならない。最後に飛び降りなければならないのじゃ。二メートル以上もある高さでビビってしまっておる。我輩はの、高所恐怖症なのじゃ。
じゃがの、坂本泉水の命がかかっておる、非常事態じゃ。非常事態宣言など、ないはずの我輩の権限で発令しようかの(笑)
ブロック塀をやり過ごし、足からゆっくり降りる。動悸が著しい。いんや、それに、熱いのう。屋内から発生する熱が、我輩を完膚なきほどに燃えつくそうとしちょる。
これは新種のいじめじゃ。痛い。降りるときにサンダルが脱げ、庭の砂利で名誉の負傷をしてしまったのじゃ。出血の有無は今のところ不明じゃが、あとで坂本泉水から勲章が欲しいの。代わりにチューでもよいのじゃが(笑)
玄関口から開けて入ろうかと思ったのじゃが、意に反して無理が生じ、仕方なく、泉水殿、泉水殿、と叫びながらドアをいくら叩いても反応がなく、これでは間に合わん可能性が高くなってしまうと気づき、庭の盆栽の狭間を通ってからサッシをガンガン叩いて名前を呼んだ。
反応は皆無じゃった。なぜにシカトするのじゃ?
聞こえんなら聞こえんでシャーナイのじゃが、すでに坂本泉水は灰になってしもうとるのか? 我輩が憧れておる方じゃ、それだけは勘弁してくんなせや。
最後の手段じゃ。盆栽の一つを無作為に選び、サッシに向けて思いっきり叩きつけた。バリンなどとのたまったが、一回で割れはせん。もう一回叩きつける。バリン。二回でも無理なのか。
施錠してる辺りに、ガンガン叩きつけた。バラバラになった箇所のガラスを剥がし、右手を入れて施錠を外す。背中を丸めながら、急いで開けてなかに入る。この部屋に火の気はない。