我輩は清掃人じゃ
4.第二の邂逅・第三は運命の女性の苦難?
そこでじゃ。事件が発生しとる現場まで見学に行こうかと思ったのじゃ。いや、見学ではなく見物か。邪魔はせんので、見させてもらえばよいのじゃが。とにかく音を頼りに、その方向まで行ってみるのじゃ。
ハンドルを握る右手と、リードを引っ張る左手、押されるだけのチャリンコ。歩いていくと、人だかりができていて、黒煙が高く蔓延している通りに出た。さっき見たばかりの大邸宅からちらほらと炎が舞っておる。厳格な門構えと高いブロック塀が、烈火のごとく怒ってるようじゃ。
坂本泉水は屋内かの?
まず我輩は、命の危険度マックスの坂本泉水の不安を感じた。どこにおるのじゃ。泉水殿に何かあれば、我輩の人生の希望の星が、消失してしまうのじゃ。一、二度、顔を拝んだだけで、向こうさんは、我輩の顔も、人間性も、存在すら知らないはずじゃ。
それでも我輩は、彼女の生命を案じ、命の限り、邁進する決意がわいてきた。
「クマ君。お主までを危険な状態にさらされんので、火事の現場から少し離れるぞよ。我輩のショータイムじゃ。アイルビーバック!」
そのシーンでも、さすがはクマ君。我輩の生き方を認知してくれ、可能性を見出してくれたのか、ニャンニャンという言い方はせんかった。要するに、行ってこい。命を賭けて、何としても坂本泉水を救助するのだぞ、と言ってたように思えたのじゃ。