【前回の記事を読む】屋内から炎が上がる中、ブロック塀をやり過ごし、玄関を開けて中に入ると「助けて」という女性の声が、はっきりと聞こえてきて…
我輩は清掃人じゃ
4.第二の邂逅・第三は運命の女性の苦難?
「坂本泉水殿!」と呼ぶと、
「どうして私の名前をご存じなんですか」と怪訝な顔をする。
「我輩は、お主が坂〇泉水に似ておるので、身勝手じゃが、坂本泉水と命名しておったのじゃ」
「奇跡的というか、奇遇ですね(笑)」
「こういうこともあるのかのう。お主は美しいおなごじゃ。このまま死なせたくはない。諦めることなく、我輩と生き延びるのじゃ。よいの?」
「もちろんです。私だってまだ二十代。死ぬには早すぎます」
「よいか。お主と我輩の分で座布団を二枚、急いで用意するのじゃ。頭の上を覆って、火の勢いに負けず、この長い廊下を玄関まで走りきるのじゃ。それしか生き延びる可能性はない。わかったかの?」
「それしかないのなら……」
「我輩を信じるのじゃ」
「信じます」
坂本泉水は急いで座布団を二枚探して、一枚を渡してきた。我輩も彼女も頭に乗っけて覚悟を決めたのじゃ。唯一の可能性に賭けて、ミッションを成功させるのじゃ。
「坂本泉水殿。今だけは、そう呼ばせてくれたまえ。用意はいいかの」
「いつでもOKよ」
「行くぞよー」
我輩はいったん背後の坂本泉水の顔を見てから、先に立って、両足をばたばたさせ、両脇の炎の勢いに敗北することなく、生まれてこのかた試みたことがないほどの速さで、駆け抜けたのじゃ。あちちちちち!
ホンマ、炎と煙で死ぬかと思うた。
玄関まで走り終わると、何らかの余裕が生まれたのかの。後ろを振り返り、坂本泉水はどうなったかの確認作業にかかったのじゃ。悲鳴を上げながら、我輩のあとを追いかけてきたようで、あとは玄関の施錠を外して外に出てしまえば、我輩の役目は終わりじゃ。その施錠じゃが、なかなか面倒なシロモノで、坂本泉水でなければ無理じゃ。
「お主、開けてくださらんか」
泉水殿の手の動きが見えんほど速かったのじゃった。幸運にも施錠は簡単に外せて飛び出し、神のご加護なのか、奇跡的に命はとりとめた。すでに、というか、今頃、新潟市にある某テレビ放送局も、物珍しくて、来ていたのじゃ。こっちゃ必死だったじぇい!
まぁえぇわ。坂本泉水は、火傷や精神面は大丈夫かのう。心配になって顔を探したのじゃ。
「泉水殿! 坂本泉水殿! どこへ行きもうした?」と叫ぶ我輩にぶつかった銭湯帰り風のオバハンが、小さな桶を片手に持ち、タオルを肩にかけて、あぁ、あの子、救急車で運ばれてったよ、などと情報を提供してくれたのじゃ。
七〇年代からタイムスリップしてきたようじゃったのが、妙に映ったのじゃ。