第一歌
ライオンが私に向かって進んでくる
たてがみを震わせ、咆哮するから、
大地も震え上がる
しかも続けざまに、ウルフまでもが現れた
痩せ細り、血に飢えたウルフ
大気も震え上がる
それを見たとき私は恐ろしさのあまり
脚がすくみ上がり、
これ以上進むことを諦めた望みのものを手に入れた者が
時が経ち、その品を手放さざるをえなくなると、
悲しみに胸が裂け、渡して悲しむが、
忖度のない獣が、私の未来を遮った様も、それに似ていた
獣は私に向かい一歩一歩進んでくる、
私はゆっくり後退る、太陽とは逆の方へと後退る
私が森の奥へ奥へと逃げる途中、
目の前に一人の男が現れた
長いこと口をきいたことがないらしく、声がガラガラである
この人気のない〝迷いの森〟で、急に現れた男を見て、
私は大声で叫ぶ
「お助けください! 人であれ何であれお助けください!」
男が答える、「今は人ではないが、かつてはお前の父であった」
(両親は三重県の田舎の出だ)
(二人共に農家であった)
「生まれたのは昭和の時代、昭和一桁だ、
そして良き高度成長の時代であった、
誰もが豊かになれた時代であった私は大工だった、そして達筆だった
あるとき盲目となった、
そして自身の夢を捨てた
だが、お前、なぜ〝迷いの森〟を引き返す? なぜ太陽に向かわない?
あらゆる歓喜の始めであり
元である、あの喜びの太陽に!」