時代が変わったのだと考えればそれまでだが、時代の何が変わったのかが理解できない。異変を感ずるのだが、その背景にいつも不安が漂っている。

もう一つ湯本は不思議に思うことがあった。養護教諭の研修会でも不登校児童への対処がテーマとして取り上げられていて、そこでは原因論も対策も小児科や心療内科などの学会のガイドラインに沿った講義が行われている。

それは当然のことだが、実際の生徒を見ているとすっきり治る例があまりないのだ。長期間の治療が続き、症状も長期間変わらない。

それに比べて全く無関係と思われるのだが、偶然、歯科の治療に行った生徒がウソのようにケロリと治り、元気になっている例が何人か目につく。それもみつる歯科で治療を受けた生徒だ。

登校できるようになっただけではない。以前より元気に遊び、体育に参加し、勉強の成績も明らかに上がった生徒もいるのだ。

不思議だ、と思う一方、これには理由があるようだという予感のようなものを感じている。治った例が幾つもあるという事実こそ重いのだと思う。それも大切な成長期に、登校もできずに寝てばかりいるのと、元気に遊び、勉強できるのとでは人生が全く別のものになる。

何とかしてあげることはできないものなのだろうか、という焦りと不安をない交ぜにした気分がいつも湯本にはあったのだ。

草介についての悪い評判は耳に入っている。草介の治療には裏付けになるエビデンスが何もないという意見もあるし、歯科界の大勢と全くかけ離れたやり方をする変わり者だという批判もある。

歯科界との折り合いが悪いのは明らかだ。しかし、と湯本は思う。余計な愛想もなく、静かにズバリと物を言う草介は確かに取っつきにくいが、笑顔がない分、真剣さを感ずるし、じっと患者を見つめる目の底に光るものには、本物の何かを感じさせられる。

養護教諭として湯本の言動には越えてはならないワクがある。組織の中で仕事をしていく以上当然だが、国や県、市の教育委員会の方針は強いワクになっている。その他にも校長や学校医などの考えもあって、それを無視した言動を取ることは難しい。

湯本に相談に来た時、実知はすでに佐倉と気まずいやりとりを経てきている。今まで、長い間お世話になってきたのだから、挨拶と相談に行ったのは礼儀として正しいが、こうなるから現実は難しい。そうかと言って無断で転医すればそれはそれでそのあとが難しい関係になる。

【前回の記事を読む】歯科業界の厄介者厄介者、三鶴草介(みつる そうすけ)。業界から煙たがられる彼だが、いざとなると......

次回更新は1月27日(月)、21時の予定です。

 

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