その後、娘は地域包括支援センターからの支援を受けることができ、マンションは売却され、母娘ともに退居している。積極的な周囲の支援が徐々に娘の心を開かせたのではないかと思っている。

自ら支援を求めない居住者にどのような支援ができるのかを考えることも、周囲の居住者の責務なのかもしれない。

オートロックの前に呆然と立ちすくむ人

高齢の男性は時折、近所に散歩に出かけていた。管理員はその男性に認知症の症状があることに気が付いていた。オートロック扉の前に立つと、鍵がどこにあるのか分からない、鍵を取り出すことができても、オートロックの開錠方法が分からない、そんなことがあったためだ。

そこで、管理員は男性がマンションに戻ると、気を利かせて、オートロック扉を管理事務室側のスイッチを操作して開錠した。

そうして男性はオートロック扉をいわばフリーパスで通過していた。

ちょうど管理員の休務日に、男性はいつもの通り散歩に出かけた。

しかし、マンションに帰ってきてもオートロックを開けてくれる管理員がいない。男性は、長い間、扉の前で立ち尽くしていた。昼間の時間はマンションに出入りする人もそう多くはない。男性はとうとうその場で失禁してしまった。

その後、通りかかった居住者が男性のただならぬ様子を見かけて声をかけ、住戸内の親族に連絡し、ようやく部屋に帰ることができた。

翌日、居住者からその話を聞いた管理員はとても後悔した。

「自分がいれば、こんなことにならなかったのに……」

この後、この男性はどうなっただろうか。

このことがあってはじめて、男性の親族もいつもは本人がオートロック扉を開錠できているのではなく、管理員が開錠しているのだと知った。今後、いつまた管理員の休務日に散歩に出かけようとするか分からない。

そこで家族は管理会社と相談することにした。その結果、家族は男性がデイサービスを利用する日を管理員の休務日に合わせることにした。デイサービスの日は散歩に出かけることはない。こうして、男性は散歩に出かける習慣を継続することができた。

マンション管理の実態は、管理員の「人間性」に頼るところが大きい。

【前回記事を読む】「この部屋の中に小人がいる」「誰かが私を天井から見ている」認知症高齢者からの相次ぐ電話に、管理会社がとった対応とは?

次回更新は1月26日(日)、8時の予定です。

 

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