第3章 認知症高齢者の増加が止まらない
防犯カメラに映っていたシーンは……
家族と同居する認知症高齢者の場合、その家族は認知症の方がいることを隠そうとする傾向がある。できる限り部屋から出ないように気を配り、ご近所の会話でも家族のことを話すことはない。
確かに、心ない言葉を浴びせる人もいるだろうし、打ち明けたところで何も解決しないかもしれない。ただ、黙っていては何も進まない。
「うちには認知症のおばあちゃんがいます」
このひとことを言う勇気を出してほしい。そこからともに暮らしていくにはどうしたらいいかを考える人が出てくるだろう。たぶん、あなたの家だけではないはずだ。65歳以上の5人に1人は認知症なのだ。
小人が天井裏に住んでいる!?
管理会社では、例えば停電や断水、漏水などのトラブルのためにコールセンターを設置している会社が多い。このコールセンターに認知症と思われる方から電話が入ることがある。
いつの頃からだろうか。特定の方から、連日のように電話がかかってくるようになった。その居住者は「この部屋の中に小人がいる」「誰かが私を天井から見ている」「すぐに来て! 小人をすぐに追い払ってほしい」と言い続ける。
どう考えてもマンションの天井に人が入る隙間などない。コールセンターの担当者は、すぐに認知症による幻聴や幻覚であると思った。
しかし、「あなたが見ている小人は幻覚ではないですか」などと言うわけにもいかず、根気強く電話の応対を続けるしかない。電話があると仕方なく、1時間ほど応対をすることにした。
そして、1時間を過ぎてから「これ以上お話ししても解決できません。申し訳ございませんが、電話を切らせていただきます」と一方的に通話を終了する日が続いていた。
平常時であれば対応も可能だが、例えば集中豪雨などの災害が発生し、他に急を要する入電があると、この方の対応のために、他の緊急の電話に出られなくなる可能性すらある。
コールセンターはとても困っていた。
この話には続きがある。この出来事の後、解決の糸口を見つけるために管理会社の担当者がご家族とご本人に話を聞きに行くことになった。コールセンターへの電話はどうやらご家族が目を離したすきにしているらしく、ご家族はコールセンターに電話をしているということを知らなかった。
ご本人は「誰も私の話を信じてくれない。今日はたまたまいないが、小人はいる。本当だ」と主張する。担当者は、自分の家族に認知症の高齢者がいたこともあり、こうした場合にご本人の話を否定してはならないことをよく知っていた。
そこで、天井に点検口を取り付けることを家族に提案した。簡単な数万円程度の工事である。この工事以降、ご本人から「小人がいる」という電話をいただくとコールセンターでは「おばあちゃん、紐を引っ張って、点検口を開けてみてください。中に誰かいますか」という問いかけをすることにした。