すると、ご本人は、点検口を開けて、誰もいないことを確認し「小人はどこかに逃げていったようだ」と言って電話を切るようになった。そのうち、コールセンターには電話もかかってこなくなった。
よく、認知症高齢者の方にどのように対応したらいいか、成功事例を紹介してほしいと言われる。しかし、認知症にはさまざまな症状がある。人間の数だけ事例があると言っていい。
この件は、成功事例ではあるが、すべての方に当てはまるとは限らない。認知症の方への対応方法には正解がない。本人とその家族の話をよく聞くことから始めるしかない。
現代版ピンポンダッシュ
40代の女性は、70代の母と2人暮らしであった。娘から見て、母が認知症なのは明らかだった。娘は年齢的にまだ働けるはずだった。
しかし、認知症の母がいては就業などとてもできない。母の年金が今の生活の収入のすべてである。「自分が今まで築き上げたキャリアもこの母がいてはもう生かすこともないだろう。行政に相談すれば何か支援が受けられるのかもしれないが、とても動き出す気になれない」そう思って娘は周囲の支援すら受けようとはしなかった。
それどころか「母が認知症だと知られれば、現在自分がカードや印鑑で引き出している母の年金や預金がどうなってしまうか分からない。今の自分の預金だけでは暮らしていけない。母がどんな状況になってもこのまま2人で暮らすしかない、自分の人生は母のために失うしかない」
娘は、自分の将来を悲観していた。
ある日、ふと気が付くと部屋の中から母の姿が見えなくなっていた。
「また、ひとり歩きが始まったのだろう。このまま帰ってこなくてもいい、その方が自分にとっては幸せかもしれない」
母の死さえ願う自分がいることをなんとなく感じながら、警察に連絡することも探すこともしなかった。どのくらい時間が経過しただろうか。インターホンが鳴った。
「お宅のおばあちゃんが、ご近所のインターホンを全部鳴らして歩いていますよ! 家でちゃんと見ていてください! 困ります!」と怒鳴る声が聞こえてくる。
「私だって被害者だ!」
娘はドアに向かって怒鳴り返した。
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次回更新は1月25日(土)、8時の予定です。
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