304号室
小学生の男の子が2人。ごく普通の男の子の兄弟である。男の子が2人いるとそれなりに騒がしい。それでも、「人に迷惑をかけないこと」を教育方針としてきた。親のひいき目もあるがいい子に育っていると思う。
夫婦はマンションを購入するときに音の問題については特に気を配った。不動産会社にコンクリートスラブ厚やフローリング床材の等級などについて確認した。
不動産会社からは「賃貸マンションとは異なり、分譲マンションは造りがしっかりしているから大丈夫ですよ」と言われた。
それなら近所に迷惑をかけることはないと思った。夫婦の年収では住宅ローンを組むのに精いっぱいであり、前の居住者が使用していたフローリング床材を張り替えるような大掛かりな内装工事はしていない。
誰にも迷惑はかけていない、夫婦はそう思っていた。
ところが、ある日、郵便受けに二つ折りの手紙が投函されていた。妻が手紙を開けると「うるさい」「子供を静かにさせろ」「親に常識がないのか」「出ていけ」「迷惑だ」という文字が躍る。頭が真っ白になった。
誰がこんな怪文書を投函したのか、あれこれ考えているうちに妻はこの手紙は自分に宛てられたものではないと考えた。
「きっと誰か他のお宅と間違えて投函したのだろう。人に迷惑をかけるような生活はしていない」
妻は手紙をゴミ箱に捨てた。
残念ながら騒音問題に決定的な解決策はない。漏水問題と同様に、被害者と加害者の間に保険会社が入って話をするようなサービスもない。管理会社が当事者間の仲裁をすることもできない。
管理会社ができるのは、掲示板などに部屋番号を特定せず、「夜間の騒音に注意してください」という掲示をするとか、全戸に同じ文面のお知らせを投函するとかマンション全体に告知することである。
マンション全体に対する告知でも解決している例もある。もしかすると、この掲示板の騒音は自分のことを言っているのかもしれない、そう思って生活に気を配るようになる人が多いのも事実だ。
また、マンションの騒音問題は音の発信源が特定しにくいという特徴がある。
コンクリートの音の伝わり方は複雑で、隣や上階の音だと思っても、別の住戸からの音だったりすることもある。「上階の人がうるさい」と最初から決めてかかるのは危険だ。全体に対する告知でも解決できない場合は、当事者同士で話し合うことになる。
話し合いに必要なのが客観的事実だ。「うるさい」というのは、個人の主観であり、他の人はうるさいと思わないのではないかと言われることもある。
この場合は、実際に発生している音の発信源とその大きさを専門の会社に依頼して測定するのがよいだろう。実際に測定すれば、客観的な数値で示すことができる。ただし、測定の結果、そう大きな騒音ではないという結果が出ることもある。測定の結果を受容しなければならない可能性もあることを覚悟しておこう。
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次回更新は1月21日(火)、8時の予定です。
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