第二章 因島
木曜日……恵利子は代休を利用し、また裕子は会社の有給休暇を取得し伊予電鉄松山市駅前で待ちあわせをしていた。駅前の大手ステーションデパートの前である。目的は先週の土曜日に出逢ったその男、青木治郎に逢いにいくためである。
夏に日差しを避ける服装である。白いワンピースの襟元にスカーフを巻いている。日焼け防止になる腕の白いサポーター。裕子も同じようなワンピースを着ていた。色は薄いピンクである。それにふたりともそろえたのかサングラスを持参していた。
ミスであるゆえ日焼けすることは厳禁である。ミスの任期の間おおきな変化は許されない。ふたりはドアを挟んで微笑みあう。他人が見ればおおきなふたりの女性は変装したタレントに見えそうである。
「さあ、恵利子さんの言うその素晴らしい夏の日の恋人をさがしにいきましょうか」
夏の日の恋人になるのか。
「はい、お願いします」
恵利子と裕子はSUVに乗りこんだ。裕子は活発な女性でSUVを所有しドライブが趣味と言っていた。彼も豪華なスポーツカーを持っているのだがよく裕子のSUVを利用するらしい。今回の作戦でも裕子さんがSUVを提供してくれていた。
「さあ、行きましょう。恵利子さんのひと夏の恋の作戦に」
「裕子さんありがとう。忘れられないの。その男性はきっとわたしを夢の世界に誘ってくれそうなの」
恵利子の心は多少浮ついていたこともあった。
「まあ、夢の世界ですか。まだ逢ってもいない、話もしていないのにもうのろけているわ」
「ごめんね……」
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