「敵味方双方の立場を考えねば城は見えてはこぬ。どう攻めるか、どう守るか、戦う前に何をすべきか、そしてどう終わらせるか……考えねばならぬ事は山ほどあろう」
「そんなもんでごいすかねぇ……おらには難しい事はさっぱりでごいす」
暫くし源五郎は熊吉とつき丸を残し、再び城の周りを練り歩きあれこれと思索したのち旅籠へ帰って来ると、給仕の下男と下女四人が立ち働き、ちょうど夕餉の支度が整ったところだった。
「左近様! ちょうどいいところでしただ」熊吉が舌なめずりしていて、つき丸はすでに与えられたものを食べていたが、源五郎の姿を見つけると喜んで出迎えた。
尻尾を振りながら食べては源五郎へ、食べては源五郎へと繰り返すのを笑顔であやした。
「よい、よい、早く食べてしまえ」
この頃の夕餉は、暗くなり手元が見えにくくなる前の、まだ明るいうちに済ませるのが当たり前であった。
源五郎達の前に置かれた膳には、玄米に焼き魚、焼き茄子、茹でた大根、味噌汁に香の物が並び、それを囲炉裏横で食べる者もいれば、源五郎達のように陣取った場所で食べる者、客の中には田楽を注文しそれを肴に酒を呑んでいる者もいる。
「これは美味いでごいすな」などと茄子を頬張りながら熊吉が言うので、
「あぁ、このすずしろも美味いぞ」
昼が遅かったにもかかわらず空腹だった二人は、あっという間に食べてしまった。
年配の下女が膳を下げて行く横で、源五郎は横になる。
暫く同じ屋根の下で休む客の話し声が聞こえていたが、外が暗くなり灯りも消されると、次第に寝息や鼾がそこらじゅうから聞こえ始め、旅籠は眠りについた。
月光に浮かぶ雲が流れ、城下は眠りに沈んでいる。
丑三(うしみ)つになろうかという時……。
つき丸が頭をもたげ突如うなり声を上げながら、旅籠の戸を睨みつけた。
それに気が付いた源五郎が眠りから覚め、今までうなり声など上げた事がないつき丸に驚きつつその視線の先を追う。