庭師と四人の女たち

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誰に言うともなく、のろのろと続けられるマス江のモノローグに、黒崎耀子が、プッとふき出した。

それって、ニムラのおやじに対する近親憎悪に近いんじゃないの――と、言いたい気持ちを何とか抑えて、「ああいうおじさんなら、よく大手企業の窓際族にいるわよ。リストラ寸前のね。ま、性格が不自由な方は、周囲で我慢してあげなけりゃあねえ」と言った。

「ともかく、あたしゃ、大嫌いだね、あんな男」

マス江が「大」にアクセントを込めて、話をさえぎった。

「あたし、どうしよう」彩香が八の字に眉を寄せた。

「この間、辰郎が、二村さんに失礼なこと言って。あわや喧嘩になりかかっちゃって。謝っておいた方が、いいかなァ」

「放っとき、放っとき。馬鹿だねえ、この娘は。あんたが悪いんじゃないんだから。どうせ、何を言っても嫌がられる奴なんだ。性格に険があるってのは、損なもんだね。ふん。あたしのこと無視しやがってさ。

先週もたまたま公園向こうのスーパーで会ったんで、あたしが一応、軽く挨拶したら、気がつかないふりをして商品棚の向こうに避けていったんだ。

こうやって、買い物籠を下げたまま、傲然と顔を反らしてね。それに、あたしが耳が遠いと思ってか、睦子ママと、『あの婆さん、あの婆さん』と言って、こそこそ悪口言ってるのを、何度か聞いてんだよ。

あんたみたいな二十代の小娘ならともかくさ、あの二村のオヤジにまで、婆さん呼ばわりされたかァないわさ。けったクソ悪い。あたしゃそういうの、ずうっと根に持つタイプなんだ。ずうっと。一生。……ところで、あんた。辰郎はもう、自分の男じゃないだろ。捨てられたんだろ」

キッチンに戻っていた睦子は、グラスを拭きながら、「まあ」と声を上げた。

「マス江さん、ちょっとさ、そこまで言うことないんじゃない」

せっかく元気になりかかっていた彩香もしょげてしまい、座ったままで何も言わずにうつむいた。

「どうしたんだい、お嬢ちゃん。人生は、これからだろう。生きるっていうことは、残酷なもんなのさ。世間や人生の陰険さなら、あたしが幾らでも、教えたげるよ。人生というものはね、あの睦子さんが言うような、甘ったるいもんじゃァないんだ。神も仏もあるものかっていうぐらいに引きずり回されて、苛酷な……」