庭師と四人の女たち

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その喫茶店は、むかし使われていた水路を埋めた緑道の脇にあったので、まるでうねるように続く白い遊歩道自体が、おいでおいでをしてこの店に散歩者たちを誘い込んでいるように思われた。

小さな並木に囲まれたゆるやかに曲がった遊歩道が、お茶を飲む束の間のひとときへと導いてくれる。店の入口脇には、それほど太くはない白樺が、蝶々のような金色の木洩れ陽を、ちらちらと窓ガラスに投げかけて、不思議な効果を上げていた。

その白樺が、どことなく信州はアルプスの麓、たとえば安曇野あたりにある洒落た別荘仕立ての喫茶店を思わせた。白樺の幹には「喫茶パンタレイ」と書かれた、お伽噺めいた山小屋風の木の看板が掛けられていた。

この店に初めて入った客は、まず店主である幸田睦子の宣伝文句を聞かされることになる。

「ウチはね、こだわりの店なの。まずお水でしょう。これは南アルプスの伏流水。それからサラダに使う野菜はね、おつきあいのある千葉の農園から取り寄せているの。もちろん、完全無農薬の有機農法よ。おつまみだって、松の実やクコの実や、生のアーモンドでしょう。ウチに通っていると、体が楽になる、軽くなるっていうお客さんも多いのよ。ちょっとした病気なら治っちゃうとか。もともと、バイブレーション、波動が違うのよねえ、『パンタレイ』の空間は」

東京とはいっても、もともと生産緑地や野菜畑や保存林の多い世田谷の奥のこの地域は、緑が道端のあちこちから異様な生命力で暗い炎のように噴き出していて、ひっそりとした住宅街に、一種独特の精気を与えていた。